なぜ資金繰り表は「すぐに」出てこないのか——そしてAIでどう変わるか
多くの会社が感じているモヤモヤ
会計ソフトを入れているのに、資金繰り表を作ろうとすると結局Excelの手作業が残る。 道具をいろいろ試しても、「何の入金か・何の支払いか」の一歩手前でいつも止まってしまう。 AIで経理が変わると聞くけれど、何がどう変わるのかは分からない——。
こうしたモヤモヤには、はっきりした理由があります。
種明かし:理由は3つ
① 仕訳に「意味」が書かれていない
資金繰り表に必要なのは「この入金は売上の回収か、借入か」「この支払いは仕入か、税金か」という
一段細かい意味です。ところが仕訳には勘定科目までしか書かれておらず、
科目だけでは資金繰りの区分を決めきれない場面が必ず出ます。
② ソフトの資金繰り機能は「科目単位」で組むしかなかった
会計ソフトの資金繰り機能は、勘定科目ごとに区分を割り当てる方式が標準です。
これはソフトの欠点ではありません。仕訳側に①の「意味」が書かれていない以上、
科目単位で割り当てる以外に方法が無かった、というだけのことです。
ただ、1つの科目が複数の意味を持つ取引(立替の精算、カードの引落しなど)では
どうしても区分を決めきれず、そこがExcel手作業として残ってきました。
③ 分析ソフトに渡るのは「集計済みの数字」だった
多くの分析・予測ソフトが受け取るのは試算表——集計が終わった後の数字です。
明細1件1件の意味は、渡される前の段階で既に失われています。
つまり、これも作り手の問題ではなく「入口のデータに意味が無かった」ことの帰結です。
役者は揃っていて、足りなかったのは意味のラベルだけ——それがAIで安く付けられる
時代になった、というのがいま起きている変化です。
これから当たり前になる形
AIで取引の分類コストが劇的に下がったいま、順番が変わります。
- 仕訳のメモ欄・タグに、資金繰りの区分をAIが書き込む(人は例外だけ確認する)
- データを吐き出して、集計は帳簿の外で行う——区分が付いていれば、 資金繰り表は足し算と引き算だけで出ます
- 区分付きの実績が溜まると、将来の「予測仕訳」が作れる——毎月の給与・家賃・ 返済・納税のような繰り返しは機械が予測し、予測仕訳から予測の資金繰り表・ 貸借対照表・損益計算書まで一気通貫で出せるようになります
- AIが分類と計算を、人が例外と判断を受け持つ——数字の責任は最後まで人が持ちます
この形は特定の会計ソフトに依存しません。多くのソフトにある メモ欄・タグ・データ書き出しの機能だけで実現できるので、 いまお使いのソフトを替える必要はありません。各社がAI機能の拡充を 進めているのも同じ方向で、この流れは道具と対立するものではなく、 道具を活かし切るための使い方の話です。
今日からできる準備——仕訳を「機械が読める形」で書く
将来AIを使うかどうかに関わらず、次のことを守っておくと、 あとからの分析・資金繰り・予測が全部楽になります。
- 相殺しない(総額で書く)——値引きや返品は打ち消しの行で。純額にすると情報が消えます
- 取引を「橋渡しの科目」で分割しない——複合的な取引は1枚の振替伝票にまとめる
- カードなどの支払いも、明細ごとに1行ずつ——まとめて1本にすると「何の支払いか」が消えます
- 内容が決まらないお金は仮払金・仮受金で帳簿に入れる——帳簿の外のメモは忘れられますが、 帳簿の中の残高は毎月必ず目に入ります
最後に
この流れは、遠くない将来に業界の当たり前になると考えています。 当事務所では、この形での記帳・検証を実際に進めています。 第2回・第3回では、お手元の仕訳データで今日から試せる 「AIへの指示文」をそのまま公開します。